生活の批評誌

「生活の批評」を集める、大阪を拠点とする雑誌です。

生活の批評通信——安定させないための方策

 

憤りと怒りと警戒心が、生活の大部分を占めつつあります。神経を張り詰めて国へ情勢へ感染者数へにらみをきかせていたかと思えば途端になにもかもどうでもよくなる起伏の激しさ、何も考えたくなくなる小さな発作、ここ数十年、この小さな発作が積み重なって今の事態が引き起こされたのであるならば、さしあたって少なくとも私は、この発作と起伏を注視するしかないと腹を決めています。
今年の1月に発行した「生活の批評通信」の巻頭言、これが当編集部の基本的なスタンスです。転載します。

 

〇安定させないための方策

自衛隊中東派遣」と書かれたニュースをタップするとそこには、涙を流す妻と子供を抱える隊員が映っていた。これは確かに起こっていることなのに、本当に起こったことなのか、と疑いたくなっている自分を発見する。戦争が起こりませんように、とベッドで毎晩祈っていた幼いころの私がこの報道を見たら泣いて狂うだろう。今、どうやら自分は正気であり、昼ご飯のことを気にしながら机に座って文章を書いている。
 
二〇二〇年。個人の小さな営みである「生活」と大きな政治状況や社会の変動、その両者の乖離とズレ、欺瞞について、一層問い問われ続ける一年になる予感がする。そのズレをどうにか解釈可能なものに落とし込めようとするとき、手に取りやすいいくつかの立場がある。激動の最中だからこそ——自身の些細な生活を”丁寧に”遂行すべきだという立場、遠い国の残酷な出来事を前に自分の生活の他愛もなさを反省する立場。生活の批評誌はそのどちらにも潜んでいる「安全性」を警戒したい。目指すのは「生活」と「社会」の関係を決して安定させないことだ。言葉を投げ出し応答を待つ。投げ出されたものに応答する。その応酬を顕在させ、不安定な関係を際限なく続けていくこと。その役目を担いたいと思う。
 
ここには、ネットで呼びかけ公募した「生活の批評」が収録されている。「雑誌」よりもインスタントで速度の速い「通信」として、生活の際限なき不安定さを受け止める一助になれば嬉しい。    

 

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*公募の呼びかけに原稿をお寄せいただいたみなさま、ありがとうございました。
 引き続き一部180円(送料込み)でBoothにて販売中です。

 https://seikatsuhihyou.booth.pm/